← サイトトップへ
制作の裏側

PV約10倍の採用広報記事、取材と編集の手の内を全部見せます

文・秋カヲリ(ブランディング編集者 / 社外CBO)

取材・執筆した記事が、noteにピックアップしていただき、SmartNewsにも掲載されました。PVは通常記事の約10倍。

……という報告だけだと「よかったじゃん」で終わってしまうので、手の内を見せます。

1時間の取材で何を聞いたのか。約2万8千字の文字起こしを、どうやって3,000字の原稿にしたのか。社員の方など「市井の人」の記事を書く際の参考になれば幸いです。

記事はこちら。ハウスドゥ・ジャパンさんの採用広報で、40代でアパレルから不動産営業に転職した山﨑さんのインタビューです。

原文記事 40代の転職。プライドを捨てて「気さくなおじさん」になったら、キャリアがつながった話 note-hdj.housedo.co.jp

冒頭2文字で撃つ

原稿はこう始まります。

40歳。それは、キャリアの折り返し地点であり、これまで積み上げてきたものを守りに入りたくなる年齢かもしれない。築き上げた実績、居心地の良いポジション、そしてささやかなプライド。それらを手放すのは、誰だって怖い。 ——記事本文より

社名が出てきません。本人の名前すら出てきません。1行目は「40歳。」の2文字です。

採用広報の記事が読まれない理由は、だいたい共通しています。「求人」として書かれているから。転職潜在層——今すぐ転職する気はないけれど、頭の片隅にはずっとある人たち——は、求人情報を読みません。

でも「自分の話」なら読む。だから最初の2文字は、会社ではなく読者の年齢に向けました。

スマホの画面で最初に目に入る場所に「40歳。」と置けば、40代の読者、あるいは40歳を意識している30代の読者はそこで止まります。そしてそこに、40歳ならではの悩みを羅列しました。具体的でリアルな単語を併記して、コンパクトな文章で共感を得られるように設計しています。冒頭数行でグッと興味関心を惹きつけることができます。

もうひとつのポイント。インタビュー記事ですがQ&A形式ではなく、山﨑さん本人のエッセイとして書いています。

「——転職のきっかけは?」と聞き手の声が入るたび、読者は物語から現実に引き戻される。語りの熱を最短距離で届けたいとき、インタビュアーは文面から消えたほうがいい。ということで、私はほとんどの記事で透明人間になっています。

図解:読まれる採用広報のつくり方① 冒頭2文字で撃つ。読まれない書き出しと止まる書き出しの比較

「気さくなおじさん」は本人の言葉ではない

タイトルは『40代の転職。プライドを捨てて「気さくなおじさん」になったら、キャリアがつながった話』。

実はこの「気さくなおじさん」という言葉、取材中の山﨑さんの発言そのままではありません。

本人が言ったのは「あんまり歳関係なく、20代の子とも気軽に話せる方がいいなと」。それに対して私が「20代とも気さくに話せるおじさんとしてやっていこう、みたいな感じですかね」と返し、ご本人が頷いた——ここで生まれた言葉です。

取材でいちばん大事な技術は、質問リストではなくこの「言い換え」だと思っています。

カウンセリングでもよくやる技法ですが、編集だとコンテンツ力を上げたいので、感覚的・抽象的な言葉を、具体的で少しだけ強い言葉に置き換えて返します。

ハマれば相手が「そうそうそう」と乗ってきて、その人の言葉になる。ズレていれば訂正が入って、精度が上がる。どちらに転んでも得しかない。

タイトルになるキャッチーな言葉は、たいてい質問の「答え」の中ではなく、この共同作業の中で見つけます。

図解:読まれる採用広報のつくり方② 言い換えで言葉を掘り当てる。本人の発言→インタビュアーの言い換え→言葉が立ち上がる

「エモ話が一個あるとありがたいんですけど」

取材相手に「エモい話をください」なんて言うインタビュアーは浅はかでしょうか。すみません、私です。

原稿の感情クライマックスは、成果が出ない1年半を支えた上司の言葉です。

「山﨑くん、あともう少しやれば、我慢してれば絶対に回ってくるから」 ——記事本文より

このセリフ、一発の質問では出てきません。

「上司の懐が深い」とおっしゃったので「上司の懐が深いなと思ったのはどういう時ですか?」と聞いたら、山﨑さんは真面目な方なので、社内の事情に配慮して言葉に詰まってしまった。そこで角度を変えて4回聞き直しました。

2回目「ご自身のことじゃなくてもいいです、だれかの話でも」

3回目「言える範囲のやらかしはないですか。そこで助けてもらったとか」

4回目「上司がいるから今があると思われるのは、どういうところでしょうか」

ここまで来てようやく、上司の言葉が出てきました。しつこいですね。

いいエピソードは「ありますか?」では出てきません。記憶は、質問ごとに違う引き出しが開く。開かなかったら、角度を変えてもう一度。取材は釣りに似ていて、釣れるまで同じポイントに違うルアーを投げる仕事です

図解:読まれる採用広報のつくり方③ エモ話は一発で出ない。質問の角度を変えて4回探るプロセス

上司の素敵な言葉が出てきたあとは、なぜ山﨑さんがその言葉に励まされたのか、その背景を描いてストーリー性やキャラクター性を上げたいと考えました。そこで使ったのが対比の質問です。

「上司にあって、山﨑さんにないものは何ですか?」

人は自分のことを直接聞かれるより、誰かと比べたときのほうが正確に自己分析します。ここで出てきた「僕はガンガン行って引き出すタイプ、上司は引いて、相手から来るのを待てる人」という対比が、原稿の人物描写にそのまま流れ込んでいます。対極的なので、読者はどちらかに自分を重ねやすいでしょう。

それから、すべてにおいて意識しているのが、抽象論では絶対に止めないこと

「事業計画を考えている時が一番楽しい」と聞いて「いいですね」で終わらせたら、この記事は薄っぺらくなります。

「楽しいと言うと、例えばどういうところが?」と一段下りると、築15年・最上階角部屋・ほぼ未入居のマンションの話が出てくる。リフォーム予算400万円を200万円に削って、浮いた分を仕入れ額に上乗せして競合に勝つ——というリアルなプロセスまで話してもらえたので、原稿ではこう書きました。

どの物件を買い、どこに予算を配分し、どうリフォームして価値を最大化するか。すべてを自分で決めることができる「事業計画」であり、私が手がける「モノづくり」なのだ。 ——記事本文より

「楽しい」は誰でも言えます。感情に至る導線を数字やエピソードなどの具体的な情報で描いてこそ、その人にしか語れないストーリーが生まれ、読んでいる人が「なんかいいなあ」と思うのです。

編集は「9割捨てる」仕事——ただし、捨てる基準がすべて

文字起こしは約2万8千字。原稿は約3,000字。9割捨てます。

構成は時系列を捨てました。取材では「経歴→転職理由→営業論→上司の話→プライドの話」という順で行き来しましたが、原稿は「決断→挫折→転機→支え→統合」の感情曲線で組み直しています。取材の順番は相手が話しやすい順番であって、読者が読みたい順番ではないからです。

広報記事におけるカットの基準はシンプル。「オフレコは全部落とす。厳しさは残す」

取材中に「これは書くか書かないかは別ですけど」と前置きされた話は、面白くても全部落としました。当たり前ですが、書いちゃいけないことは書けません(笑)

一方で、毎日成績ランキングが出ること、入社1年で手当が減ること、惜しいタイミングで去っていった仲間のこと——会社の「厳しさ」は、あえて残しています。このリアルな厳しさを消すと、記事が嘘になるからです。

採用広報の目的は「たくさん応募が来ること」ではなく、合う人が応募して、合わない人が自然に離れること。リアルな情報は、読者への誠実さであると同時に、スクリーニングとして機能します。実際、この記事を読んで応募する人は、毎日ランキングが貼り出される環境を承知の上で来る人です。

あとは、笑いの位置。奥さんに「あんたはすぐ謝るけど、本当に悪いと思ってる?」と呆れられる話は、取材ではただの雑談でしたが、原稿では本文の流れを止めない括弧書きに挿しました。ストイックな話は、ユーモアをアクセントに入れないと説教になり、煙たがられます。

図解:読まれる採用広報のつくり方④ 編集は9割捨てる仕事。28,000字を3,000字に再構成する基準

で、なぜ10倍読まれたのか

まとめると、こうです。

会社ではなく読者目線で書いた。求人ではなく、ひとりの人間の葛藤の記録として成立させた。それによって記事は広告ではなく「読み物」になります。

noteの編集部のみなさんもSmartNewsのアルゴリズムも、広告は拾いませんが、読み物は拾う。営業をかけなくても、勝手に広がっていく。

求人広告は掲載期間が終われば消えるフローですが、読み物として成立した採用記事は、「そろそろ転職かな」と思い始めた人に、検索とレコメンドで届き続けるストック——資産になります

図解:読まれる採用広報のつくり方⑤ なぜPVが約10倍になったのか。広告ではなく読み物として成立させる

ただ、最後にこれだけは書いておきたいのですが、今回のPVは私の手柄というより、山﨑さんが過去の葛藤を正直に話してくれたこと、そしてそれを会社が「そのまま載せていい」と判断したことの結果です。

取材相手の勇気と、企業の度量。書き手にできるのは、その2つを損なわずに読み物へ編集することだけです。

そのうえで留意しているのは、その2つを引き出せる土壌となること。つまり「弱い部分も話していいか、と思われる人間であること」です。

葛藤や失敗は弱みでもあるので、基本的には話したくないものです。話してもらうには、葛藤や失敗込みでその人を受容し、尊重する姿勢を見せ、信頼してもらわないといけません。こちらがどんな心構えで話を聞いているかは、目線、姿勢、表情、言葉、すべてに出ます。心からの純粋な好奇心であったり、敬意であったり、思慮であったりを余すことなく全身で表現して、傾聴しながら踏み込み、引き出させてもらう。そんなことを意識して、目の前の人に向き合っています。

取材を山ほどやってきて思うのは、人は「立派な人」ではなく「正直な人」に惹かれる、ということです。弱さすら見せられる人は、強い。改めてそう思います。

見せたくないだろう脇腹を見せてもらえると、私も「ありがとうございます!がんばって書くぞー!」となります(笑)

そんな寛大で人間的魅力にあふれた山﨑さんの記事、ぜひご覧ください。

原文記事 40代の転職。プライドを捨てて「気さくなおじさん」になったら、キャリアがつながった話 note-hdj.housedo.co.jp

WORK WITH ME

このプロセスで、貴社の記事をつくります。

導入事例・採用広報・経営者インタビュー——取材から執筆まで、記事1本5万円からご依頼いただけます。「うちの場合はどう書く?」という段階のご相談も歓迎です。

お問い合わせ・ご依頼はこちら まず自社の現在地を知りたい方は 会社の伝わり方 3分診断(無料)